がんが転移する仕組み
癌の転移は、癌細胞が元の腫瘍から周囲の組織に浸潤し、血管やリンパ管を通じて体内を移動することで始まります。その後、他の臓器や組織に到達して定着し、新たな腫瘍として増殖することで転移が発生するのです。がんの転移は野球のピッチャーとキャッチャーに例えられます。がんを投げるのが上手な臓器(転移させやすい臓器)、投げるのが下手な臓器(転移させにくい臓器)、また、飛んできたがんを受けるのが上手な臓器(転移されやすい臓器)、受けるのが下手な臓器(転移されにくい臓器)と言えると思います。今回はそれらに該当する臓器に何が挙げられるのか、それらの臓器の違いは何なのか、また転移させないためには何をすればいいかをご説明します。
転移させやすい臓器(がんを投げるのが上手な臓器)
臓器名①肝臓
肝臓は門脈を通じて多くの血液を受け取る臓器です。この血液には腸管から吸収された細菌やウイルスなども含まれることがあるため、がん細胞の発生リスクを高めます。また、肝臓は栄養素の代謝と解毒を行っているため、肥満、糖尿病などの状態は肝臓に過剰な負担をかけ、がん細胞発生のリスクを増加させることがあります。肝臓の血流経路は腸からのがん細胞が肝臓に到達しますが、他の臓器へ転移する際の道筋にもなっています。肝臓は血液の循環が非常に多いため、がん細胞が血流に乗って他の臓器に到達しやすいのです。
臓器名②肺
肺は喫煙や空気汚染などの外部要因にさらされやすく、特に喫煙は肺がんの最大のリスク因子とされています。肺は大量に血液が流れているため、がん細胞が肺に到達した場合に血流に乗ってさまざまな臓器に転移する可能性が高いです。肺がん細胞は強力な浸潤能力を持っているため、周囲の組織に広がることができ、血流やリンパ液に乗って他の臓器に移動しやすい性質を持っています。そのため、肺から他の臓器への転移が多く見られるのです。
臓器名③大腸
大腸は食生活、遺伝的要因、加齢などによりがんの発生リスクが高まります。大腸は大量の血管とリンパ系があるため、がん細胞が他の臓器に転移しやすくなっています。また、大腸がん細胞も強力な浸潤能力を持っているため、周囲の組織に浸潤しやすく、血流やリンパ液に乗って他の臓器に転移する可能性が高いです。
転移させにくい臓器(がんを投げるのが下手な臓器)
臓器名①心臓
心臓は血液を全身に送り出す役割を持っており、非常に高速で血液が循環しています。そのため、がん細胞が心臓に到達しても定着する時間がありません。また、心臓の筋肉組織は栄養が豊富にある環境ではなく、がん細胞が成長するための環境が整っていないため、癌が発生すること自体が非常に稀です。さらに、心臓には免疫細胞も存在するため、がん細胞が侵入してもこれを排除する力が強いと考えられているのです。
臓器名②脳
脳には血液中の多くの物質や細胞が脳に容易に到達するのを防ぐバリアとして血液脳関門が存在します。そのため、脳腫瘍の原因になりうる物質が脳に到達しにくくなり、がんの発生リスクが低下します。これにより、がん細胞が脳から血流に乗って他の臓器に転移することが難しくなります。原発性の脳腫瘍は、細胞が他の臓器に適応しにくいという特性があるため、他のがんとは異なって他の臓器への転移が非常に稀です。
臓器名③小腸
小腸の上皮細胞は非常に速い速度で再生され、傷ついたり異常な細胞ができても速やかに新しい細胞に置き換わるため、がん化するリスクは低いです。小腸は他の臓器と比べてがんは発生しにくく、発生した癌も早期に発見されることが多いため、他の臓器に転移することが少ないです。ただし、完全に他の臓器への転移が起こらないわけではないため注意が必要です。
転移されやすい臓器(がんを受けるのが上手な臓器)
臓器名①肝臓
肝臓は血流が豊富なため、血流に乗って運ばれたがん細胞が辿り着きやすくなっています。肝臓には多くの血管があり、がん細胞が付着するのに適した環境です。特に、大腸がん、胃がん、膵臓がんといった消化器系のがんが肝臓に転移することが多く、肝臓はがんが転移する頻度が高い臓器となっています。肝臓は多くの免疫細胞を持っていますが、血液中の様々な物質を処理する役割も担っているため、免疫から逃れてがん細胞が増殖しやすい臓器になっているのです。
臓器名②肺
肺は体全体の血液が流れ込み、血液が豊富に循環しているため、血流に乗ったがん細胞が肺に到達しやすいです。肺には多くの毛細血管が広がっており、肺静脈と肺動脈は繋がっていないため、一種のフィルター状態になっています。そのため、がん細胞がここに引っかかり、他の臓器に広がるのをある程度防ぎますが、引っかかったがん細胞が肺組織に侵入するリスクも高まる構造になっています。肺は酸素と栄養が豊富にあるため、がん細胞の成長を助ける場所となり、定着しやすい環境が整っているのです。
臓器名③脳
脳は非常に血流が豊富な臓器のため、がん細胞が血液を通じて流れ込みやすい環境になっています。しかし、脳には血液脳関門と呼ばれる血液中の異物が脳に侵入するのを防ぐバリアが存在するため、一般的には転移されにくい臓器です。その一方、肺がん、乳がんといった一部のがん細胞はこのバリアを突破する能力を持っており、脳に到達することができます。また、脳の特異な環境に適応しやすく、成長しやすい性質を持っているため、特定のがん細胞は脳に転移しやすいとされています。
転移されにくい臓器(がんを受けるのが下手な臓器)
臓器名①心臓
心臓は血液を全身に送り出す役割を持っており、血流が非常に速いため、がん細胞が心臓に付着して増殖するのは難しいです。心臓が休むことなく動いていることで、がん細胞が留まりにくくなり、細胞が安定して付着することが難しくなります。また、心臓の筋肉組織は栄養供給が少なく、がん細胞が成長するための環境が整っていないため、がん細胞が増殖するのに適していません。さらに、免疫系が強く働いているためがん細胞が定着しにくくなっています。肺がん、乳がん、腎臓がん、白血病やリンパ腫などの血液系のがんは、心臓に転移することがありますが、非常に稀です。
臓器名②小腸
小腸は血液供給が豊富ですが、他の臓器より血流が比較的少ないため、がん細胞が転移する頻度は低いです。小腸の血液は門脈を介して肝臓に流れ込みますが、肝臓はがんの転移が頻繁に見られる臓器のため、小腸からがん細胞が直接転移することは少なくなります。また、小腸には多くの免疫細胞が存在し、病原体やがん細胞を排除する働きがあるため、小腸に到達したがん細胞が定着しにくい環境です。しかし、完全に転移を防ぐわけではないため、注意が必要です。
臓器名③脾臓
脾臓はリンパ系の一部であり、豊富な血流を持っているため、がん細胞が脾臓に到達する可能性が高くなります。一方で、脾臓は免疫機能として血液中の異常な細胞を排除する役割を持っているため、がん細胞が脾臓に到達した場合に排除されることが多いです。しかし、脾臓は白血病やリンパ腫といった血液の癌からの転移を受けやすい場合があり、脾臓が腫大したり、がん細胞が浸潤したりすることがあります。また、胃や大腸といった他の臓器からのがんが脾臓に転移する場合もあります。脾臓への転移は比較的稀ですが、完全に転移しないとは言えないため、注意が必要です。
臓器によってどんな違いがあるのか?
転移させやすい臓器は、血流や栄養供給が多かったり、浸潤能力が高いため、がん細胞を発生しやすくし、がんが転移しやすい環境になっています。転移させにくい臓器は、血流が少なく、物理的バリアや高い免疫機能が働いているため、転移させにくくしていると考えられます。転移されやすい臓器は、血流が豊富でがん細胞がそこに辿り着くのに適しており、がん細胞が浸潤しやすい環境になっています。また、免疫機能が低下していることも考えられます。転移されにくい臓器は、血流が速かったり、特定の経路のみ血流が通るため、がん細胞が到達しても定着しにくい場合があります。また、免疫機能が比較的強い場合が多いため、がん細胞が到達しても排除される可能性が高いのです。
がんを転移させないためにできること
一般的な方法
一般的な治療方法は、外科的治療、放射線治療、化学療法、免疫療法などです。患者の状態や癌の種類によって異なりますので、主治医と相談しながら最適な治療法を選択することが重要です。
HICクリニックでオススメしている内容
当院ではがん遺伝子検査によって、がんの原因となる遺伝子を約261種類調べ、異常の有無を調べることができます。その診断結果を参考にテーラーメードの遺伝子治療を提案しております。がんの転移を防ぐために早期発見は非常に重要です。がん遺伝子検査は超早期のがんリスクを発見できるので、転移リスクを減らすことが可能です。
まとめ
がんには転移されにくい臓器がありますが、転移されにくい臓器といっても、完全にがんが転移しないとは言えません。そのため、定期的な健康診断やがんの早期治療、健康的な生活習慣の確立などが重要になります。